2015/07/31
月島に恋した男たち
自ら企画・デザインしたTシャツを着る岩滝(左)と小林(右)

「これが僕が憧れた月島の夜景だったんですよ。この風景を見てこの街に引っ越すことを決めたんです。」大洋印刷の小林は熱く自分の想いを語っている。そこにオーナーの岩崎誠さんが返す。「僕が幼少の頃は佃大橋も中央大橋もなかったんだ。この勝鬨橋だけだったんだよ。」月島で生まれ育った人間と、月島の魅力に導かれて新しく居を構えた人間とが、Tシャツの図柄について話し合っている。地元を盛り上げるためのTシャツづくり。今回はその打合せをしている居酒屋『月島 鶴ちゃん』にお邪魔させていただいた。

取材先:居酒屋『月島 鶴ちゃん』岩崎誠さん、岩崎実さん
大洋印刷:営業部 小林孝、プロモーション部 岩滝英夫

西仲通り商店街、通称『もんじゃストリート』を進んでいく。昭和のレトロな看板建築を残した店舗が軒を連ね、基盤の目状に交差する細長く古い長屋が路地裏を構成している。住戸には必ずといっていいほど植木鉢が置かれ、毎朝水をやる穏やかな光景を想像することができる。そんなしっとりとした空気の中を5分ほど歩くと、参番街にある『月島 鶴ちゃん』にたどり着いた。オーナーは岩崎誠さん(以下、鶴ちゃん)、店長は鶴ちゃんの実弟である実さん(以下、店長)。店舗はいわゆる「月島らしい」雰囲気からは遠く、独特の佇まいを見せている。

—— お二人とも地元の方ですよね。お店をはじめてからどれくらい経ちますか。

鶴ちゃん
生まれも育ちも月島。お店はまだ5年目です。それまでは大正から続いている薬局でした。店舗二階の看板もそのままでしょう。店内にある「サトちゃん」も薬局のときの名残。父が亡くなって、飲食店をはじめました。月島だから、もんじゃ屋にすれば儲かることはわかっているけど、コミュニケーションの場をつくりたかったから居酒屋にした。儲けは度外視して(苦笑)

店長
お店をはじめたときは缶詰バーでした。そこから少しずつ仲間が増えていって、イベントを開催しはじめました。落語家さんをお招きしての寄席や、ウクレレライブ、お笑いイベントも。だんだんと幅を広げています。

左から 小林、店長の岩崎実さん、オーナーの“鶴ちゃん”こと岩崎誠さん、岩滝

—— 小林はどういうきっかけで鶴ちゃんと出会ったのですか。

小林
最初は客として。月島に憧れて引っ越してきて、はじめて一人で入ったのがこの店でした。友人も近くに越してきたので、ここで良く飲んでいたんです。

鶴ちゃん
月島は遅くまでやっている店があまりないからじゃないかな。孝(小林)は仕事の関係もあって夜遅いでしょう。彼とは最初からフランクに話せたので、シャッターを締めて一緒に飲んだりするうちに仲良くなった。でも俺、説教ばかりしているけどね。飲み過ぎたり、騒ぎ過ぎたりするからね。(笑)

—— 今回Tシャツを制作しようとしたきっけは何ですか。

小林
元々自分で着たいものをつくろうとしていた矢先に、ある出来事があって。以前つくった他店のTシャツを、町のおばちゃんが着ていたのを見たんです。そのお店に聞くと、常連さんがどうしても欲しいと言ったのであげたと言うんですよね。これはおもしろいな、と。月島の『鶴ちゃん』でも出来たらいいな、コミュニケーションツールとして使ってもらえたらいいなと。そこでデザイナーの岩滝に協力してもらって、デザインを考えて。

岩滝
デザインのポイントは、わかりやすさとチャーミングさ。お土産のようなものではなく、普段から着られるようなTシャツにしたかった。

店長
そしたら出来上がったTシャツをいきなり持ってきたんです。その前から盛り上げようって話はしていたし、Tシャツをつくるのもいいね、とは答えていたんですけど、あっという間に完成したものを持ってきた。「どうしたの、これ?」って思いますよね。(笑)

—— かなり強引ですね。

鶴ちゃん
「あ、できたの?」って。ビックリしたけど、まあこれはこれでいい。でも生まれ育った人間から見る月島ではない。まず勝鬨があって、月島があって、佃がある。どうせつくるんだったら、こだわってつくった方が良いという話をしました。そしたら、じゃあもう一枚つくりましょうと。それを今つくっているところですね。

小林
そこまでこだわるとは思わなくて(笑)。でもTシャツを見に来てもらって、『鶴ちゃん』で飲んでもらえればいいなと思っています。新しいTシャツはスタッフにも着てもらえる予定(※取材時 現在は完成済)です。

—— でもお店のロゴは入っていませんね。

店長
うちのお店を宣伝するものじゃなくて、月島を盛り上げるためのものとして考えています。東京オリンピックも近づいてきたし、やっぱり海外からの観光客に楽しんでもらいたい。この店の日本語Webサイトはないのですが、英語サイトは用意してあるんです。

店内にはフィギュアやウクレレなど様々なものが展示されている

—— これから月島をどう盛り上げていきますか。

鶴ちゃん
いわゆる「月島ブランド」に匹敵することをつくりたい。外国人の方への「おもてなし」をキーワードとして、日本のカルチャーを拡げられるようなこと。例えば秋葉原のメイドさんを呼んで、3日間限定でメイド居酒屋をやって大盛況でした。『忍者もんじゃ』という企画も検討中です。そして、いま浅草に行っている海外観光客にも来てもらって楽しめるようなところにしたい。だからゴジラもフィギュアも飾ってある。たまたま入った外国人のお客さんが「なんだここは」と写真を撮りまくって喜んで帰っていきます。もっともっと喜んでもらうイベントを、どんどんやっていくつもりです。ゲームや映画を制作する仕事をしていたので、企画は得意なんですよね。

小林
意外性がありますよね。もんじゃの街にきたらニッポンが詰まっているところだなんて。

店長
もっと肌で感じることのできるリアルなことをやっていきたい。日本カルチャーの聖地にしたいですね。

鶴ちゃんは「株式会社月島エンタテインメント」の代表取締役としても活躍

—— 最後に小林に期待することをお聞かせください。

鶴ちゃん
彼の素晴らしいところは、全く知らない人でもすぐに仲良くなれるところ。お店にもたくさんの友人を連れてきてくれる。そのコミュニケーション能力をこれからも大切にして、「孝はホントに月島が好きなんだな、月島を応援しよう、月島を盛り上げたいと思っているんだな」ということが、商店街の人や地元のおじいちゃんおばあちゃんにも伝わって、みんなの息子であり「月島のタカシ」になってほしいなと思います。

小林
(笑)そうですね。東京オリンピックを迎えるにあたり、月島から東京を世界に向けてPRしたいですね。

取材を終えて帰ろうとすると、鶴ちゃんから「すこし飲んでいきませんか?最近子供の頃駄菓子屋で食べた『昭和もんじゃ』を大人になって懐かしく食べられる味にして復刻させているんです。」とお誘いをいただいた。まだ陽が落ちる前のビールは、背徳感も手伝って格別であるのは言うまでもないが、『昭和もんじゃ』にとても驚かされた。見た目は地味。具はキャベツとベビースターだけ。だがスープに海鮮の出汁がしっかりと効いていて、実に旨い。これは月島中を探しても、他の店舗では食べられないのではないだろうか。この味を外国の観光客のためだけにするのはもったいない。我ら日本人こそ食すべきである。『鶴ちゃん』はステレオタイプではない月島の魅力に溢れている。この魅力をぜひ、店舗で感じていただきたい。その際に、店の片隅にあるTシャツも見ていただけたらと思う。

インタビュー・文:栗原勲
写真:園田真大

月島 鶴ちゃん
東京都中央区月島3-6-5
TEL 03-5546-3592
営業時間 17:00〜23:30
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左から佃の夜景、勝鬨橋(各種ともネイビー、ホワイトあり)各2,500円

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